【小説紹介と雑談】『彼女が好きなものはホモであって僕ではない』と同性愛について
高校一年生の春休み、僕、安藤純はクラスメイトの三浦紗枝がBL本を買うところを目撃してしまう。どうやら彼女はホモが好きなようだ。まあ、だからと言って僕は自分が同性愛者であることを彼女に明かすつもりはない。勘違いしてはいけない。彼女が好きなものはホモであって、僕ではないのだから
同性愛者の少年と腐女子の少女が織りなす奇妙な関係。ふざけたタイトルに反し、同性愛というテーマに真面目に取り組んだ作品になっております。
【備考】
本作にブラッシュアップを加えた書籍版が角川書店系列から文芸単行本として出版されています。こちらも是非よろしくお願いします。
カクヨム内特設ページ
https://kakuyomu.jp/publication/entry/20180216
本文紹介より
おすすめ度☆☆☆☆
(おすすめ度 指標
☆5つ 万人におすすめ出来る完成度が非常に高い小説
☆4つ 小説好きには勿論、殆どの層におすすめできる完成度の高い小説
☆3つ 少し癖があるものの小説好きにおすすめ
の目安で付けています)
この小説は同性愛をテーマにした青春小説です。青春小説って名前が正しいのかわからないんですが、ここでは思春期の少年少女の心の成長を描いたものとしておきます。
刺激的なタイトルですが、内容としてはいわゆる創作上にあるBLと現実としてある同性愛の認識違いから起こる擦れ違い、人間心理みたいなものが中心として書かれていきます。その過程で主人公たちが成長していくというこのジャンルではある意味王道な形ですね。
こういう青春小説にはある意味冷たいとも取れる現実に対してもがく思春期の少年少女達の心の揺れ動きを繊細に描写する必要があり、自らも悩んで解決したという経験値豊富な作家さんしか書けない難しいジャンルだと思っています。
それでこのテーマということは作者の方はかなり勉強したのか、もしかするとと思っていましたが、カクヨム機能の近況報告ページで同性愛者であることを打ち明けていらっしゃいました。マイノリティをカミングアウトすることは勇気ある事だと思います。
この小説『彼女が好きなものはホモであって僕ではない』では心の揺れ動きが非常にうまく描かれており、作者さんの力量と経験値が見えるようで思わず唸ってしまいました。
純粋に青春小説としてもとてもうまく出来ており、テーマに興味がなかったとしても楽しむことができます。現実そのままとは言いませんが知見を広めながら楽しむことができるので、青春小説を見たいと思っている人には迷わずおすすめします。
コミカライズの他、NHKでのドラマ化も行われたそうで興味のある方はそちらから入ってもいいかもしれません。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054881880612
https://comic-walker.com/contents/detail/KDCW_CB01200747010000_68/
余談ですが、ネット小説としてはあまり見ないタイプではあるものの、テーマを考えるとここが一番ふさわしいのかなぁと思います。誰でも見れて間に何かが入らないネット掲載が初出。結局普通に最初から書籍の線で考えていくとどこかで待ったがかかるか、この小説が届いて欲しい層というのに届かなくなるような気がするんですよね。
別に同性愛者だけでなくて現在進行形でアイデンティティに悩んでいる少年少女や、そこをなんとか乗り越えてきたけどまだ不安定な人なんかに読んでもらえるのがベストだと思うんですが、その辺を書籍や雑誌から始めるとなるとどうしても方向性が定まってしまうと思うんですよ。難しい問題ですからね。それが少しづつ簡単になるといいなと思いますが。
後は創作で出てくるオカマキャラ(差別的言葉ですが通りを優先します)ってどこか余裕があって精神的に大人な感じで描かれることが多い訳じゃないですか。結局こういうテンプレって言うのも自己のアイデンティティに悩みぬいた結果、そういう境地に至った現実の同性愛者の人がモデルになってると考えるとなかなか興味深いような気がしてきますね。
こう考えるとアイデンティティに対して折り合いが簡単についた人が、他人のそういう悩みに対しての初期的な拒否反応を反射的にしているというのが問題なのかもしれません。私の学生生活中にも何人かの同性愛者の人と知り合いましたし、知らないだけもっとたくさんいたのだろうなとは思います。実際遠いようで物理的な距離は全然ない身近な問題ですからね。当事者ではないにしても何かしらの回答は自分の中に用意しておくべきなんでしょうね。