オタク文化の切れの端

基本的にweb小説を紹介するブログです。普通のラノベも読みます。批評とかもします。たまに一般文芸とか映画の感想とか思ったこととかが入ります。

ジャンプ+ 読み切り感想 『皆殺しのアリス』

 興味がある漫画・小説・映画を全部買ってると明らかに破産するので漫画アプリとかでちまちま漫画読んでるんですが、最近はもっぱらジャンプ+見てます。

 そのジャンプ+ですが最近(というほどでもない)はランキングに読み切りが出てくることも多く、その読み切りが結構面白かったりするので気に入っています。

 せっかく読んでるしこれからは感想記事にしてこうかなと。布教したい。今回はこれ↓

 

 この読み切り『皆殺しのアリス』はアクション物ですね。読んだ感想としてはかなりうまくまとまっていて面白かったです。

 主人公のアリスは無人兵器を操る存在として教育された兵士で、過酷な訓練により感情の起伏が乏しく、周りからは忌み嫌われています。そんな中、ある時から周りの風評を気にせずにアリスに構う男が現れます。ビルというその男はアリスにつれなくあしらわれながらもめげずに話しかけ続けます。そんなビルにだんだんとアリスの意識も変わりだして……。

 というあらすじですね。こういうストーリーはかなり昔からある王道な感じで、特段珍しいものではありませんが、それゆえにきちんと表現できれば面白いのは保証されているとも言えます。

 このストーリーを漫画で表現するのにあたって一番大事なことは、キャラクターの感情表現だと私は思います。感情の起伏が乏しい主人公が自分を気にかけてくれる人の感情や思いを受けて、自分なりの答えを出すという一連の変化をきちんと描写しないとあんまりおもしろくならないと思います。

 そのためにもキャラのバックグラウンドや変化のきっかけとなる人物の感情表現、もちろん主人公の変化等、描写しなければならないことがたくさんあります。その辺りをきちんと読み切りという形態で形にしているのはすごいなぁと思います。少し駆け足と思う場面もあったのですが、全体的に面白かったです。

 

 余談ですが、最後の終わりといい他の物語の前日譚感がめっちゃすごいな……みたいな気持ちになりました。そのまま別の漫画が始まりそう。

 

 

【漫画 感想】だんしゃりと機能不全家族

 どうも私です。今日はモーニング月例賞の佳作を受賞された『だんしゃり』の感想です。ここから読めるのでどうぞ。

comic-days.com

 

 それで感想なんですが、なんというか複雑な気持ちになりました。あまり良くない方面で。こういう方面の構造になまじ固まった思想あるためにうーんとなってしまうというか。

 主人公の家庭は明らかな機能不全家庭で祖母や父親の反応がとてもリアルです。このような『外には出ないが家の中で問題が多々ある』ような家庭はありふれているでしょう。ただ外に見えてないだけです。

 このような家庭で育った子供というのは心にトラウマを抱えた状態で大人になっていくわけで、それがアダルトチルドレンと呼ばれる人たちになります。自己肯定感が育たずに身体だけが大人になってしまった人。そんな境遇の主人公が救われるまでの話しを描いたのがこのだんしゃりです。しかしながら思うことが二つ。

 一つ目なんですが主人公は明らかにそのような機能不全家庭で育っているのですが、自己肯定感が結構残っているんですよね。幼い頃からであれば反論なんて出来ず、諦めが先に来るはずなのでこのような口論に発展しないはずです。これは精神が強いとかそういう話しではなく、システムのようなもので外部からの手助けがなければこうなります。

 なのでこの祖母と父親と主人公の三人で暮らすようになって問題が発生したと考えられるわけですが、明確に記されていない母親の存在を考えると中学校のあたりまでは自己肯定感がある程度育まれる環境にあったと考えるのが妥当です。

 この自己肯定感や反骨心がなければ先輩に対して助けを求めるという行為にも家出という行為にも繋がりません。その時点でこの境遇の子供が助かるには『事前に自己肯定感が育まれる環境が必要』という夢も希望もない結論になってしまいます。家族に縛られた主人公が救われる話にこの結論は辛すぎませんか? まずこれが一つ。

 二つ目は先輩の存在です。主人公はこのような重い話を抱えているわけですが、先輩にはそんな素振りが一切ありません。主人公に非常に都合のよく作られた理想の助け舟です。主人公の事を肯定しつづけてくれますし、最後は結婚し子供を作って家族まで作ります。

 こんな都合のいい存在いるわけねえだろ! みたいな話はしません。フィクションなのでこういうスーパーマンがいてもいいでしょう。しかしながら気になる点があります。それは主人公と先輩のきっかけです。

 作中で先輩と主人公の関係は共に好きあってる描写で始まります。先輩側が恋愛感情から熱烈なアプローチ(下級生の教室に来るのは熱烈と言っていいでしょう)をしかけ、自己肯定感が減っているので回答できないものの、主人公も先輩が好きと。恋愛感情を発端としています。

 少なくとも男女逆転させたら成立しないでしょう。先輩側が何の問題もなく主人公を支えられるから成立しています。女性側がぐいぐいアプローチをするならば男性側に何かしらの強みがあるようなエピソードがないとおかしい……となるわけですが男女逆転した場合、もはや別の物語になってしまいます。

 この時点で主人公の性別が女性であり、容姿がすごく悪くはないみたいな前提が必要になってしまいませんか? フィクションなのにあんまりではないですか。救われる素養があるから救われましたなんて話は。これが一つです。

 この漫画の感想をツイッターで見てみるとこの漫画を見てなんだか救われた気がすると書いてあるツイートが非常に伸びていました。かくいう私もそのツイートでこの漫画を知りましたが、少なくともこの漫画で救われた気になっている人はもう十分救われていると思います。

 総じて私にとってはリアルな機能不全家庭の事を描いているのに、時折夢から出てきたような存在が出てきて主人公を助けるので、返って現実が浮き彫りになってしまう漫画でした。

 いろいろと考えさせられたので学びになったなぁと思いつつ、この境遇の人が救われるモデルケースは結婚しかないんですかという気持ちにもなります。現実。

 今日はこの辺で。ではまた。

【雑談】オタクがチェンソーマンに踊り狂えてファイアパンチに踊り狂えなかった理由

 はい。私です。今日はファイアパンチの話しでも。

 皆さんチェンソーマンって漫画知ってますか? 今ジャンプで連載中の人気漫画です。月曜日になるとツイッターでオタクの人たちが踊り狂ってる漫画です。

  リンクはこれです。面白いので読むといいです。

  まあそれはともかく。この漫画の作者の人はその前にも漫画を描いていて、それが今回の話題のファイアパンチです。見たことないって人はとりあえず一話読んでください。無料なので。実はついこないだまで全話無料だったんですけど、細かいことは気にしてはいけません。ちなみに私はアホなので読み忘れてTUTAYAで借りて再読しました。アホなので。

[1話]ファイアパンチ - 藤本タツキ | 少年ジャンプ+

 

 一話読みましたか? 最高ですよね? 面白くなる感じしかしない。私が最初に読んだとき、こりゃあどえらい漫画が来たと思いました。一話にして絶望的な世界できっちりカタルシスを溜めて主人公を主人公たらしめる。新しい風が来たなぁなんて思ったものです。ネットでもかなり話題になってましたね。すげえ漫画が来た! みたいな。

 でまあそこからだんだんと遠くに飛んで行ってしまったわけですが、実際読んでいて伏線や展開の仕方、絵の上手さ、あと漫画の構図はめちゃくちゃに上手いわけです。絵に関しては週間の今より上手い気さえします、まあ背景が雪景色が多いというのも原因ではありますが。

 じゃあ何がダメだったのかと言えば、私的には展開の速さだと思うんですよ。それと映画っていう趣味要素を前面に絡めた感じ。

 私はそこまで映画に詳しくはないのでここがこの作品の影響を受けているなというのを的確に表すことはできませんが、伏線の張り方や構図や演出などに雑多な映画の影響が染み出ています。色んな媒体から影響を受けているのは感じますが、映画の分量が多い感じ。

 映画というのは漫画や小説なんかよりずっと尺が短いもので、普通なら二時間弱、長くても二時間半程度で終わってしまいます。なので無駄な描写や意味の薄い描写を挟んでいるとあっという間に時間が無くなってしまう。常に意味のあるシーンを映し続けないといけない。この辺りの映画の原則がこの漫画にも表れていると感じます。常にノンストップでストーリーを走らせ続ける。

 しかしまあ漫画というのは静止画であって動きを演出するにも限度があります。その上少なくとも映画っていうのは喋って動いてくれるのでキャラクターや世界観のリアリティをある程度担保してくれるのですが、漫画は説明がなければなかなか厳しい。絵で説明するにも限度がありますから。

 これが世界観的に馴染みのある現代とかだったら現実がある程度担保してくれるんですが、ポストアポカリプス的な世界観を使っているので説明する必要が結構あります。それを趣味的な映画という要素に絡めてハイペースでポコポコ進んでいくので読者が置いてかれたというのが私の感想です。なかなかないですよ。読者が離れていったんじゃなくて作品自体が遠くに行っちゃうの。

 チェンソーマンはその辺しっかりしていて担当の方がきっちり手綱を抑えてるのかなぁと感じます。このまま飛んで行かずに行ってくれよ……と失礼な心配をチェンソーマンにはしてるのですが、オタクたちが踊り狂ってる間は大丈夫でしょう。今のジャンプは面白い作品がたくさん出てきてすごいですね。

 ではまた。

【感想】シャンフロ コミカライズの感想

 前に紹介したシャングリラ・フロンティアが書籍化を飛び越えてマガジンで漫画化されました。これだけの人気があって書籍化していないというのはまあ何らかの形でトラブルがあったんだなと思っていましたが、いきなり週刊誌で漫画化というのは予想を飛び越えた展開です。

 展開も早く、pvを出したと思ったらすぐに本誌での連載が始まりました。いまなら無料で一話読むことができます。下がリンクです。

pocket.shonenmagazine.com

 

 

 それでまあ読んでみての感想なのですが、正直なところがっかりしたというのが本音ですね。がっかりというのは正しくなく、より正確に言うならばまあそうなっちゃうよね……というのが正直な思いではあります。ツイッターなんかで見てみると好評な声が多く、この作品は固定層めちゃくちゃ多いという事実を再確認しましたが、個人的にはうーんと思ってしまったのです。気になった点をいくつか。

 

 ・原作の要求量に達せていない

 シャンフロは数多のゲームを渡り歩きつつ、メインであるシャングリラ・フロンティアの攻略を進めていくわけですが、漫画という題材でやる以上、作画というのは基本的にメインの作者が一人で、あとはアシスタントという感じになるわけです。船頭多くして山に登るとも言いますし、複数の人がメインを張ることはできないわけです。頭を決めてその人の絵柄を使ってやっていくことになります。

 しかしいろいろなゲームを渡るという作品のコンセプト上、その一つ一つに最適なキャラクターデザインがあるわけで、作画側の人はそれをきっちり確認した上、自分の絵柄で出力しなくてはなりません。この一話だけでも

・冒頭のフェアクソ

・主人公のリアル

・シャンフロ

 と三つの書き分けの要求がありますし、原作が進むほどロボとかファンタジー生物だとか作画要求が跳ね上がっていきます。なので作画側の負担がめちゃくちゃでかい。

 この漫画を担当している方の絵が下手とは口が裂けても言えませんが、原作側が求めてきている要求があまりにえげつないので、達することができていないというのが一つ。

 

 ・演出に対しても立ちはだかる要求量の多さ

 基本的に舞台がゲームであり、膨大な情報量を一人称の形で限定して出力している原作ですが、紙面に制限がある漫画という媒体と相性が悪いと言わざるを得ません。VRとはいえゲームの戦闘描写というのはひと手間多くなりスマートに描きづらいですし、その上一人称なので主人公の思考がそれに付随します。それを完璧に描き切って取捨選択するというのはもはや神業でなければ無理なのではと思っていたわけですが、実物を見ると頑張ってはいるもののやはりもっさりとした感じに。

 小説ならすんなり飛ばせる場面も漫画だとそうもいきませんからね。この本編での例として、主人公がハシビロコウ的な仮面をつけて戦う場面というのは、小説ではあまり気になりませんが漫画だとかなりシュールです。

 これはなぜかというと小説は一人称で、主人公の目線で進むので戦闘場面で表したいこと、つまりゲーム内での戦闘に対しての興奮にフォーカス(視点)が向くので見た目の事はフェードアウトしているわけですが、漫画だとそうもいかないので全体像を描かねばならないからです。

 こういう描写に対して考えられる解決策としては主人公のフォーカスに合わせて仮面を透かして読者とフォーカスを合わせるなどが考えられますが、他にも色々解決策はあるでしょう。

 他にもゲーム的演出を入れる時にそのまま文字などで入れるとその場面の主題から遠ざかってしまう問題や、そのまま表現すると作画コストが天井知らずになる問題など作画側が漫画造形に死ぬほどうまくないと解決できない問題などが少し考えるだけでもめちゃくちゃあります。前者は画力でそういう描写なしの表現をする、後者はデフォルメをうまく使うなんかが思いつきますが、どれだけの超人を連れてくればできるんだって話です。求められるものが多すぎる。

 ・キャラデザ

 これはまあ個人的な話しなんですけどヒロインちゃんのキャラデザが想像と全く違っててめちゃくちゃ悲しくなりました。恋愛ヘタレお嬢様で文武両道の清楚なんて黒髪ロングのベタ塗りしかないだろと思っていたんですが……垂れ目でエアリーボブ。恋愛経験値はナメクジなのになんでそんなゆるふわコーデ? まあそれもなくはないって感じなんですけど……ですけどー! 今後の動きを考えるとそのほんわかしたデザインでヘタレムーブというのは違和感しかないというか……。

 原作の設定で髪型とか公開されていたのかと思って漁ったんですけど出てこなかったのでこれが初出っぽいです。ここにあるんだけど節穴か? ってなった人は教えてください。

 原作者の監修が絶対入っている以上、これが正しいんだと思いますが……。泣いています。

 他にも三つの世界が一話で描かれているわけですが、どれも服装が変わっただけでその世界のキャラデザじゃないなーと感じます。全部画一的というか。まあコスト的に言えば仕方のないことではあるんですが、納得はしたくない。

 

 大まかに言えばこんな感じですね。細かく言えばいくらでも言えますが、これは一重にVRゲーム物という作品の漫画化難易度が高すぎるのが原因だと思います。

 こういううるさいオタクというのは私含め少数でしょうが、何となくのような言語化できない理由で読むのやめたとなる人は結構多いと思います。

 これから先、マガポケのアプリで配信される限り追っては行こうと思いますが、この漫画が原因でシャンフロが小説を読まない層にも爆発的にヒット! ということにはならないんじゃないかなーというのが私の正直な感想です。

【ネット小説 紹介】賢者の弟子を名乗る賢者

仮想空間に構築された世界の一つ。鑑(かがみ)は、その世界で九賢者という術士の最高位に座していた。
ある日、徹夜の疲れから仮想空間の中で眠ってしまう。そして目を覚ますと、そこは今までの世界とは違い……。何よりも、慣れ親しんだ渋く老練とした威厳のある姿が、幼気な少女のものになってしまっていた。
何者かと問われ、正直に名乗れば今まで培ってきた荘厳なイメージを崩しかねない状況。そこで思いついた言い訳は……。

 

 

 

おすすめ度☆☆☆☆

(おすすめ度 指標

☆5つ 万人におすすめ出来る完成度が非常に高い小説

☆4つ 小説好きには勿論、殆どの層におすすめできる完成度の高い小説

☆3つ 少し癖があるものの小説好きにおすすめ 

の目安で付けています)

 

 

 この小説はハイファンタジーです。異世界転生物ですね。召喚術師として活躍していたゲーム内の世界にTS転生して冒険するって感じの内容となっています。

 内容としてはこういうジャンルでの主流ともいえる戦闘での無双なんかをメインにした感じではなく、異世界での道中を楽しむのがメインですね。とはいえ普通に無双してくれたりもするので比重が違うという感じでしょうか。7:3くらい?

 この小説の特徴と言えば丁寧さですね。世界観から戦闘描写、日常の些末なこともきっちり書かれていて、これが道中を楽しんでいる雰囲気を作り出し、深めています。目的に対してのアプローチがかなり現実味を帯びていたり、何でもかんでもうまく言ってる感じではありません。それがここが異世界で冒険をしているという感覚を読者に共有させてくれます。異世界冒険譚が好きな人には特におすすめですね。

 しかしながら丁寧な描写というのは展開の遅さとも隣り合わせなので、もっとサクサクとストーリーを進めてほしい! みたいに思う人にはちょっと合わないかもしれません。あくまで異世界道中がメインです。

 ちなみにかなり昔からの小説*1で長く続いているこの小説を紹介しようと思ったきっかけなのですが、アニメ化が決まったという報告が最新話の末尾にあったからですね。おめでたいことです。

 漫画も出ており、読んだ感想としては想像していた感じが見事に再現されていて出来がいいなぁと思っていたのでアニメ化も納得です。この機会に読んでみるのもいかがでしょうか。

 

 https://ncode.syosetu.com/n6829bd/

 

 

 

 

 

 

*1:初稿2012年

【ネット小説 紹介】辺境の老騎士

大陸東部辺境のテルシア家に長年仕えた一人の騎士。老いて衰え、この世を去る日も遠くないと悟った彼は、主家に引退を願い出、財産を返上して旅に出た。珍しい風景と食べ物を味わう気ままな一人旅に。彼は知らない。それが大陸中で語り継がれる冒険譚の幕開けとなることを。※「老騎士外伝短編集」なども別途公開しております。※この小説は「カクヨム」にも投稿しています。「カクヨム」では、書籍版付録のSSも掲載しています。※書籍版全五巻販売中です。KADOKAWAエンターブレイン)様より。

 

 

おすすめ度☆☆☆☆(☆)4.5

(おすすめ度 指標

☆5つ 万人におすすめ出来る完成度が非常に高い小説

☆4つ 小説好きには勿論、殆どの層におすすめできる完成度の高い小説

☆3つ 少し癖があるものの小説好きにおすすめ 

の目安で付けています)

 

  この小説はハイファンタジーです。web小説には珍しいド直球の王道冒険譚です。世界観に浸るのがメイン。

 内容について触れますと老騎士が一人旅を行い、異世界を漫遊する冒険譚です。転生やスキルによる無双などのなろうにありがちな物ではなく、あくまでその世界観の現地続きに物語が展開されており、とても没入感があります。

 主人公は老齢の騎士であり、自分の終わりを求めて旅を始めるという現在の潮流から全く外れた始まりですが、過去の出来事から続く縁や新たな出会い、それらが紡ぎ出す物語はまさにファンタジー冒険譚の王道と言えるものでしょう。

 世界観の描写が非常に上手く、特に食事のシーンには気合いが入っています。キャラクター達もライトノベルチックなキャラの立て方ではなく、いろんなことで戸惑い迷う現実の人間に近く描かれています。このような描き方をすると雑味が入ってストーリーが難しくなったりもするのですが、綺麗にまとめているところが作者の方の実力を感じさせます。どこか違う世界をちゃんと感じさせてくれる小説はwebでは珍しいですね。

 この小説は完結済みで漫画化もされています。漫画の方もとても出来がよく、作品の魅力を余すことなく伝えています。web小説のメディアミックスは多々あれど、これほど出来がいいのはなかなかないです。

 転生はもう飽きた! という人や王道の冒険譚を! と思う方にお勧めです。

 余談ではありますが、この作者の方はこのような実直な世界観の小説を何作か書いており、この雰囲気が気にいった人は他の作品もおすすめです。

 

 

https://ncode.syosetu.com/n5011bc/

 

 

 

 

辺境の老騎士 1

辺境の老騎士 1

 

 

【漫画】響~小説家になる方法~【感想】

 先に断っておきますがこれは普段のweb小説紹介ではなく、私が読んだ漫画の感想なのでweb小説を求めてきた人はブラウザバックしてください。それか他の記事読んでください。最近は漫画やアニメを消化していて小説を追う頻度が下がってるのでこういう記事が増えるかもしれません。

 

  ということで本題の漫画の感想を。

 この漫画、響~小説家になる方法~なんですがすごいんですよ。いろいろと。

 

 導入としてはある日小説の編集部に募集要項を満たしていない手書きの原稿が送られてきます。連絡先すら書かれていない、あまりにも自己満足のためだけのそれ。当然要項を満たしてないので捨てられかけたその原稿ですが、ある編集者が興味を持って読み出します。その小説は革新的な小説でこれは絶対に売れると確信した編集者はこの作者に何とか会いに行く。その作者はなんと高校一年生の女子だった。

 

 みたいな感じですね。でこの漫画の何がすごいかっていうと主人公と周りの描写のギャップがやばすぎるんですよ。

 

 主人公の響は傍若無人という言葉がすごく似合う振る舞いでやりたい放題します。自分の作品を望まない形に持ってかれそうになったら殴る蹴る、自分がつまんないと思ったらその作品を作者本人の前でボロクソに貶すとか。それは彼女の信念に基づいて行われてるように描かれるわけですが、まあ端的に言ってしまえば凡人が考えた天才ですね。

 

 まじめに考えれば主人公の信念の元っていうのが自己の感性に基づいた世界観であるわけなので、そこから出力される”最強の小説”が説得力の9割を占めるはずなんですけど作中だと主人公の小説の中身が全く出てこないんですよね。まあすべてを説得できる小説をここで示せるなら作者がそれを現実でやれよって話になるので当然ですが。天才の皮だけ丁寧に作った感じ。

 

 主人公以外の周りの描写はかなりリアリティがあって高解像度。筋が通っている世界の中で唯一主人公だけが浮きまくってるんですよね。傍若無人の振る舞いをしてもすべてが許されてあの子だから仕方ないみたいになるんですよ。直木賞などの現実の賞なんかが出てくるのもあって現実との被りがかなり感じられるのに、主人公の周りだけ歪んでいるというか。

 

 まあフィクションって現実から歪曲しててそれを楽しむものなんですけど、この漫画だと他の描写がきっちりしてる分、歪みが作品内でくっきり浮かんでいるというか。

 

 マジですごいんですよ主人公。小説書くだけで首相官邸に出入りして首相とマブダチになるし、テレビ局に殴り込みしてプロデューサーを肉体的に脅すし。世間で知らない人はいないレベルで有名になり、気に入らなかったら殴る蹴る。本当に最強。こんだけやって周りが全部現実準拠なので最高ですよ。

 

 こんだけボロクソに言ってますがこの漫画めっちゃ面白いですよ。あまりに歪みがでかすぎて常にツッコミしながら読めるので。「でたぁ!! 響さんの正義の正拳だぁ!」となります。

 

 少し前に最終巻が出たんですけど、それまでずっと『主人公の小説には読んだ人間を洗脳する力があり、それに気づいた現人類だったがもう人口の半分は洗脳されてしまっていた。人類は響を打ち倒すために最後の攻勢にでる』みたいなラストにならないかなってずっと考えてました。こうなったらマジで伝説の漫画でしたね。今後一年語れた。

 

 まあ一言で言えば小説版俺TUEEEEなんですけど、そこ以外の作りこみが真に迫ってるので違和感がすごくてシュールギャグとしてめちゃくちゃ面白かったです。みなさん読んでください。誰かに語りたくてしかたなくなります。

 

響~小説家になる方法~(1) (ビッグコミックス)

響~小説家になる方法~(1) (ビッグコミックス)