オタク文化の切れの端

基本的にweb小説を紹介するブログです。普通のラノベも読みます。批評とかもします。たまに一般文芸とか映画の感想とか思ったこととかが入ります。

【小説紹介と雑談】転性のノスタルジアとTS物について

 あらすじ

 主人公である桜田美咲は女子中学生。その歳にしては冷めた精神くらいが特徴の普通の子。周りの人たちだって何もおかしなところはない。テストの結果や淡い人間関係。若かりし頃、誰にでも有りえた可能性。ただ一つ違うことがある。美咲には男として生きた前世の記憶があった。

 

 

おすすめ度☆☆☆☆

(おすすめ度 指標

☆5つ 万人におすすめ出来る完成度が非常に高い小説

☆4つ 小説好きには勿論、殆どの層におすすめできる完成度の高い小説

☆3つ 少し癖があるものの小説好きにおすすめ 

の目安で付けています)

 

 この小説は純文学。まあ簡単に言えばTS物ですね。私はこのジャンルがとても好きですが、webで見かけるこの系統のものだとただの添え物というか、あっさり流されてしまっている気がします。

 リアルの話で言えば性別というのはアイデンティティの重要な要素であり、自分という精神に深く結びついています。これが変わるということは自己の同一性に疑問が生じるということになります。性同一性障害みたいな話もありますしね。

 私がTS物で見たいところは自分の性別を通して起こる出来事による揺れ動く精神の変化です。堅っ苦しく書きましたが別になんてことはなく、身体が女の子に代わってあたふたするのが見たいのです。別にあたふたしなくてもいいですが、体の変化によって起こされるイベントとそれに伴う精神の変容こそ醍醐味だと思うです。その結果男に惚れるなんてことがあってもいいですし、百合に落ち着いてもいいです(百合の場合だと、一度精神の変容があって自分の性自認を確かめたけど女が好きとならないといけないので難しいですが)。ただ元男の精神なので女の子と付き合い、そのままゴールしましたじゃダメ、みたいな感じです。

  TSをただの一要素として扱っている物語だと別にあんまり気にならないんですけどね。いやまあ気にならないと言えば嘘になりますが読むのやめたりはしないって感じです。TSメインだとどうしても気になってしまいますね。

 もう少し突っ込んだ話をするならフィクションって結局、欲望を疑似的に叶える物だと思うんですよね。基本的にTSの要素はライトノベルで書かれることが多いんですけど、そのあたりだと作者の欲望=性癖が前面に出てくるんですよ。まあそれ自体は別に何の問題もないし、むしろそれが読みたくて来てるわけです。

 しかしまあフィクションがただの作り物で張りぼてだった場合、ごっこ遊びをしてる気分になると言いますか、言ってしまえば醒めてしまいます。ギャグ物などこういう世界ですよ~と示されてない時は基本的に現実を準拠にしてるわけですから、そこを説明もなしに大きく乖離されるとそんな気持ちが大きくなります。

 それでTS物なんですが、結局リアルに考えると精神の問題にかなり直結する話じゃないですか。その辺の整合性をきっちり描かないで性癖に沿って書いちゃうとキャラクターが操り人形にしか見えなくなりがちといいますか。まあかなりオタクが入った話なのであれですが。

 とまあかなり性癖の入った脱線をしましたが、この小説は成人した男が女の子になったら、というのをファンタジックな要素なく淡々と描いていく小説です。そこには高揚や戸惑いなどのポップな要素はなく、少しづつ、しかし着実に変わっていく主人公の内面が綺麗に描き出されています。純文学はあまり読まない(表紙に惹かれない上に最寄りの図書館が遠い)のですが、これを気に他に読んでなかったジャンルも手を出して食わず嫌いを直そうかなと思いました。そんな落ち着いた面白さがあります。特にお気に入りの話しは『昇段審査』。理性と本能が入り混じった描写がとても好きです。

 

https://ncode.syosetu.com/n0217ej/