オタク文化の切れの端

基本的にweb小説を紹介するブログです。普通のラノベも読みます。批評とかもします。たまに一般文芸とか映画の感想とか思ったこととかが入ります。

【小説紹介と雑談】赤い森のイリスと伝奇物について

 

日本のどこにでもありそうな片田舎でのお話。異世界帰還TSもの

 

 紹介文より

おすすめ度☆☆☆☆☆

(おすすめ度 指標

☆5つ 万人におすすめ出来る完成度が非常に高い小説

☆4つ 小説好きには勿論、殆どの層におすすめできる完成度の高い小説

☆3つ 少し癖があるものの小説好きにおすすめ 

の目安で付けています)

 

 紹介文では伝わりにくいと思いますがこれは完成度の高い魔術伝奇ロマン物です。TS要素は物語のパーツとして組み込まれていてそこまで主張(ここでの主張とは核ではないという話で物語としては重要です)してくるものではないです。自分が見たことのある作品で言えばfateが近いですね。

 伝奇ロマン物はあまり履修していないのでそこまで語ることはできませんが、このジャンルの魅せ方というと、いかに普段の日常から裏面である非日常がすぐそばにあることを訴えられるかに尽きると思っています。まあ平たく言ってしまえば日常のリアリティをそのままに非日常に突入できるかですね。どんな小説のとこでもリアリティと連呼してますが結局フィクション(特にギャグ作品じゃないもの)なんてのは架空の設定に現実感を出せるかに尽きます。出す場所が違うだけでどれも共通してる話。まあ私個人の見解ですが。

 この小説はその日常から非日常へ。普通の学生から一歩道を逸れただけで魔術飛び交う知らない舞台へ。その転換が非常にうまく、それを支える丁寧な描写。背景や心理、そもそも場所選定の良さ(夏という季節をこれだけ活かしてるのはすごい)やよく煮込まれた設定もすごいです。この情景が素直に浮かんでくるような描写というのも筆力の高さもそうですが、この辺りを考えながら体験していないと出てこないと思うんですよ。本当によくできてるなぁと感心します。

 伝奇ロマン物は下調べが多いジャンルです。魔術やその背景なんかをよく知っているのが前提ですし、そもそもこの世に存在しない物がメインになるわけですから、それをきっちり書き切る力も必要です。しかもそれを現実に上手く接続しなきゃいけないわけで改めて思うと難易度がかなり高いです。その分完成した時の力というのは半端じゃないというのは古いとこで言えば夢枕獏の『陰陽師』、最近で言えばfateなんかが証明しきってますが、なんにせよ作者さんの力がかなり求められるのは間違いなさそうです。その辺りを全部クリアしているこの小説が面白くないわけがないですね。

 これだけの小説があまり知られていないのはハーメルンという二次創作が盛んな場所でオリジナルが評価されずらい?(私もハーメルンはあまり詳しくないので推測です)のと紹介文の薄さ、短くライトノベル一冊程度で纏まっている(継続更新されていない)ことなんかが原因かなぁと思います。私は幸運なことにツイッターで流れてきて知りましたが、そのきっかけが無ければ知りえなかったと思います。このように埋まっている小説をどんどん読んでいきたいですね。

 一度読んでその完成度と読後感の良さに浸って読み直してなかったのですが、今度もう一度読み直そうと思っています。日常のすぐそばに潜む異世界、夏の情感、感慨に浸れます。とてもおすすめです。

 

https://syosetu.org/novel/120922/