オタク文化の切れの端

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【映画感想と雑談】『来る』は人の悪意をテーマにしたホラー

 今プライムに『来る』というホラー映画が公開されています。リンクはこれです。www.amazon.co.jp

 

 昔からあまり実写映画は見ないので来たのですが、まあそろそろ手を出す頃合いかなぁと最近ちょっとずつ手を出してますね。

 そもそも映画って二時間くらい動かないでそれを見る集中力がいるじゃないですか。アニメとかの映像作品全般がそうですが、そうやって長い時間落ち着いてることが出来なかったので見てこなかったわけです。

 今はまあ椅子にふん縛ることをしなくても何とか耐えれるようになったので履修するかと重い腰を上げました。直近で言えば『パラサイト』とか『ジョーカー』とか見てましたね。で今回は『来る』の感想と。

 まず最初に言っておくとめちゃくちゃ出来が良くて面白かったです。私自身はあんまり映画を見てきてませんが、非常に丁寧に作られていて、伏線の回収なんかも本当に綺麗で感心してしまいました。ストーリーラインなんかは元々の原作小説がすごいというのもあると思うんですが、きっちりと粗なく仕上げてくるというのはこの映画の監督が原作を理解しているからだと思います。すごい。

 ここから先は内容についての感想です。がっつりネタバレするので注意。

 

 

 この映画、序盤中盤でめちゃくちゃ丁寧に田原夫妻の成り行きが描かれて行くわけなんですが、まずその辺りの描写のリアリティがめちゃくちゃすごくて、いや質感すごいな……となってました。なかなかあんな偽幸せの家庭みたいなのをリアルには描けないですよ。

 それでまあ丁寧に怪異である「ぼぎわん」の情報を追加していって、夫妻と関わった人間たちがどんどん破滅していくわけですが、その辺りの流れがめちゃくちゃ丁寧ですよね。怪異のパワーアップ方法(お守りの件や犠牲者の数とか)もその辺りのきっちり抑えられていて、終盤あれだけ暴れまくっても納得できるというか。めちゃくちゃ丁寧な田原夫妻その周辺のエピソードの前振りのおかげですね。

 そして「ぼぎわん」との最終決戦となるわけですが、その前に「ぼぎわん」の賢さがすごいんですよ。最初の田原さんを電話で騙して殺したシーンとか、仲間として呼んだ霊媒師が移動中に殺されちゃう。こんなことを考え、実行できるのは人間くらいなものです。

 一つの怪異という言ってしまえばそれだけの存在だったはずなのに、悪知恵を持ち合わせたもっと悪辣な怪物になってしまっている。ここに至って「ぼぎわん」というのは人の悪意に力を持たせたモノになっているわけです。殺し取り込んできた人間たちはみんな誰もが持っているような人間の悪性があったわけですが、それが悪いと断じることができるほど人間って強くないですよね。この辺りでこの映画を通して恐怖を与えてくるモノとして描かれているのは人の悪意なんだなぁと感じました。どこにでもあって目に見えないもの。

 そして最終決戦。真琴の姉である琴子が中心に霊媒アベンジャーズみたいな感じになるわけですが、手あたり次第にいろんな手段を集めて対抗してもボッコボコにされます。人の悪意に人間は宗教や法律と色んな手を使って何とかしようとしてきたわけですが、現代までそれを完全に抑え込めてはないわけです。そう考えてこの辺りを見るとメタファーになっているのかなぁなんて思えますね。

 琴子さんが最終的に除霊するまでにいろいろあるわけですが、本編で野崎に対して琴子さんが言っていたこととして、守るべきものを失うのがとても怖いので作らないようにしているあなたと私は似ているのかも、みたいな話しがあります。

 人の悪意に対して勝てる人間というのは弱みがない、つまり付け入る隙が無い人なわけです。琴子さんは完全無欠のように見えましたが、唯一真琴という自分の妹がウィークポイントだったという。冷たいようでかなり気に掛けているのが出てますしね。予定パンパンの最強霊媒師がまだどうでもよかった頃の「ぼぎわん」に電話越しと言え何とかしようとしてたんですよ。そこからまた妹の真琴が再び関わるまで出てこなかったんですからもうね。ツンデレです。

 そのせいで本人が言うところの無様な除霊になってしまったわけですが、真琴を逃がしてタイマンに持ち込んだらあれだけ暴れ散らかしてた「ぼぎわん」にも普通に勝ってしまいます。野崎が知紗を救えたのはトゥルーエンドのボーナスというか。自分の悪性から逃げなかったから。この辺りの関係はとっても納得がいってすごいなぁと感心しきりでした。とっても面白かったです。

 

 とまあべた褒めしてなんですが、やっぱりホラージャンルは苦手ですね。ホラーって登場人物が勝てることがほとんどないんですよ。勝ってもすごい犠牲の果てとか生存が勝利報酬とかがほとんどで対抗手段のほとんどが対処療法というか。

 大体ホラーの題材って身近にある恐怖なわけです。虫とかへの生理的嫌悪をあおったり、暗闇での無力感とか。今回の映画で言えばホラーの根源は人の悪意なわけじゃないですか。もう現実でそういうのを感じつつ過ごしてきてるんだから増幅して伝えてこなくても……みたいな気持ちになります。フィクションの中くらい勝ちたい。

 まあ作品の出来と私の好き嫌いは別としてるのでまた機会があったら他のホラーも読んだり見たりしますが。またなんか見たら感想でも書きます。

 

 

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