オタク文化の切れの端

基本的にweb小説を紹介するブログです。普通のラノベも読みます。批評とかもします。たまに一般文芸とか映画の感想とか思ったこととかが入ります。

【小説紹介と雑談】『IF GOD 【佐為があのままネット碁を続けていたら…】』とヒカルの碁の話し

原作で佐為がネット碁を続けていたら……という二次小説になります。
早期に佐為と塔矢行洋の対決が実現。ヒカル、佐為、行洋の3人で<sai>の正体を隠す。

(注意書き)
※このSSは以前arcadia様に投稿していたものと同じものになります。(現在は、arcadia様の方に投稿していた分は全て削除済となっております)

 

おすすめ度☆☆☆☆

(おすすめ度 指標

☆5つ 万人におすすめ出来る完成度が非常に高い小説

☆4つ 小説好きには勿論、殆どの層におすすめできる完成度の高い小説

☆3つ 少し癖があるものの小説好きにおすすめ 

の目安で付けています)

 

 

 今回の小説は漫画『ヒカルの碁』の二次創作小説ですね。『ヒカルの碁』自体はアニメ化もした名作で私もめちゃくちゃ好きなんですが、少し古めの作品なので軽くあらすじだけ。

 主人公ヒカルが家にあった古い碁盤に触れると過去に碁の天才棋士と呼ばれた藤原佐為に憑りつかれる。囲碁のことを全く知らなかったヒカルだったものの、佐為の目的である碁で神の一手に辿り着きたいという熱意を間近で見るうちに、ヒカルも碁の世界にのめり込んでいく。

 みたいな感じですね。囲碁という余り馴染みのない題材でありながら、それをよく知らない人間にも物語が分かり、なおかつめちゃくちゃ面白いという奇跡の漫画です。

 言っちゃあなんですが囲碁って漫画に映えないじゃないですか。盤面を一目で見れるのは小説にない利点ですが、基本的には囲碁の知らない人間が漫画を読むわけです。私もヒカルの碁はめちゃくちゃ好きですが、囲碁のルールはほんの少ししか知りません。そんな人間が大半なのではないでしょうか。その上でそういう人でもわかる面白さがないといけません。なので囲碁がメインでありつつも、基本的に読者にとってはそれによっておこる人間ドラマがメインになります。

 それでもですよ。どうしても囲碁が思考の遊戯である以上、派手な立ち振る舞いは行われないわけです。相手の一手に対しての思考や気づき、その上での感情の揺らぎなんかが面白いポイントなわけですが、それって一枚絵の連続である漫画では表現しにくい領域ですよね。表情とコマ的限界のある文字数で、複雑な思考や感情を伝えるよりも最初から小説のような文字ベースで行った方が合ってるという。

 しかしながらヒカルの碁のすごいところはその辺りをすっ飛ばして、私たち囲碁知らない民にもわかりやすくかつ面白いところです。

 ストーリーがいいとかキャラ立ちがすごいとかたくさんすごいところはあるんですが、私が一番すごいと思ってるのはどう見ても小説での方が向いてるであろう微細な心の情動を漫画でやってしまっていることです。『ヒカルの碁』の作画はデスノートバクマンなどの作画も手掛けている小畑 健という方がやっているのですが、本当に画力がえぐい。コマ割りとかもそうなんですけど、表情で雄弁に語らせるその技術に驚くばかりでしたね。

 

 ……とまあ本家である『ヒカルの碁』の話しを長々とやってしまったんですけど、この題材自体はやはり文字媒体の方があっていると思うんですよ。成り立っているのはえぐい画力と秀逸なストーリー&キャラクターのおかげというか。その点、この二次創作は原作の空気感を全く損なわず、ありえたであろうIFの話しを描いてくれているので、とても楽しく読むことが出来ました。また原作を読み直してみようかなと思わせてくれる二次創作の一つの形、その深みを感じれました。

 『ヒカルの碁』が好きな方にはまず間違いなくおすすめできる小説です。読んでない人は読んでください。面白いし面白いので。

 

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