オタク文化の切れの端

基本的にweb小説を紹介するブログです。普通のラノベも読みます。批評とかもします。たまに一般文芸とか映画の感想とか思ったこととかが入ります。

【ネット小説 紹介】迷宮クソたわけ

奴隷狩りに捉えられた少年は商人に買われ、冒険者の道を強要される。
冒険者適性が壊滅的になかった少年は仕方なく、誰でもなれる(そして一番死にやすい)魔法使いとして迷宮に挑むのだ。

【1月31日 KADOKAWAから書籍が発売されまました】

紹介文より

 おすすめ度☆☆☆☆

(おすすめ度 指標

☆5つ 万人におすすめ出来る完成度が非常に高い小説

☆4つ 小説好きには勿論、殆どの層におすすめできる完成度の高い小説

☆3つ 少し癖があるものの小説好きにおすすめ 

の目安で付けています)

 

 

 この小説はハイファンタジーです。この小説は主人公が奴隷の立場から脱出するために魔法使いとして迷宮に潜っていくといったまあ設定だけを言ってしまえばよくある話です。特にweb小説では。しかしこの小説はその辺の小説でありがちな成りあがっていく解放感や、強くなって復讐するカタルシスといったものとはあまり縁がありません。

 主人公は奴隷狩りに攫われた身。奴隷として売られた自分を買い戻すために迷宮に潜るわけですが、ほとんどの職業へ適性が無いので誰でもなれて一番死亡率の高い魔法使いへ。最初の冒険では大ネズミ相手に辛勝するものの宝箱に掛けられていた罠によって早々に仲間が死に……とまあ世知辛い。ここから先もひたすらに泥の中をもがくかのような、ファンタジーでありつつも人間臭い物語が続きます。

 主人公の周りを取り囲む人間たちも皆”人間臭い”。そんな生々しさがこの作品に私たちを引き込み、この世界特有の奇妙さが心を掴み、時折垣間見える人の美しさで離さない。そんな小説です。

 この作品は作者さんが自身で書いているように現在のRPGの源流(D&Dだろというツッコミは置いてください)ともいえるウィザードリィを強くリスペクトしています。なので他のweb小説の設定に似ているというよりはウィザードリィにweb小説が似ているというべきですね。源流からの汲み出しなので類似点があるのは当たり前の話し。作者さんがウィザードリィ好きなのは主人公の名前がアなことからも推して知るべし。未知であり、一つのミスで仲間、自分が死んでいく。一つの決断は決して自分が望んだようにはいかず、大きなうねりの中それでも抗い進む。そんな雰囲気がとても伝わってきます。

 最初期のファンタジーというのはこのようなもう一つの世界があり、そこにも抗えない法則や現実があると作られたわけですが、その面白い要素を抽出して現実のえぐみを削ぎ落としてライトにしていったのが今のラノベの主流です。

 しかしながら削ぎ落とされた部分にしかない面白さというのも確かにあり、それを思い起こしてくれるようなこの小説の雰囲気が私はとても好きです。

 ヘビィなファンタジーの息遣いを感じたい人におすすめです。

 

 

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885436251

 

 

迷宮クソたわけ 最弱魔法使いは借金返済のためコツコツ冒険をくりかえす

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