オタク文化の切れの端

基本的にweb小説を紹介するブログです。普通のラノベも読みます。批評とかもします。たまに一般文芸とか映画の感想とか思ったこととかが入ります。

【ネット小説 紹介】超世界転生エグゾドライブ -激闘!異世界全日本大会編-

西暦20XX年。
この世界とは異なる現実の実在が証明された世界。
技術の急激な発展によって、かつては奇跡であった異世界転生は今や競技となり、世界救世は娯楽と化した!

世界を行き来する転生装置ドライブリンカー
絶大にして無敵の力を与えるC(チート)メモリ。
人生の優位を競うIP(イニシアチブポイント)。
そして異世界転生技術を悪用する、謎めいた組織――


使用不能のCメモリ【世界解放】を持つ中学生、純岡シトは、数限りない強敵との異世界転生を通じて、謎と戦いの渦中へと身を投じる!

 

【完結済み】

 

おすすめ度☆☆☆☆

(おすすめ度 指標

☆5つ 万人におすすめ出来る完成度が非常に高い小説

☆4つ 小説好きには勿論、殆どの層におすすめできる完成度の高い小説

☆3つ 少し癖があるものの小説好きにおすすめ 

の目安で付けています)

 

 この小説は大まかに言えばコメディです。しかしながらそこには異世界転生というwebで氾濫している概念を、ホビー販売促進のアニメの型に押し込んでパロディするという斬新かつ複数ジャンルが混ざる内容となっています。

 この小説を初めて読んだときに負けた! と思いました。というのもweb小説やライトノベルにかなりの期間浸っていた私は小説などの物語、特にポップカルチャーの構造理解にかなりの自信がありました。

 しかしこの小説は私が漠然と『こういうジャンルがあって、その話はこのような展開をしていくのがベストである』という思ってはいても明文化していなかった部分を物語上に押し込んでパロディしていました。

 和歌の本歌取りもそうですが、パロディというのは結局元の基盤の事をきちんと理解していないと面白くならないものです。誰だって自分が詳しいものに対して間違った認識を語られたら笑えません。

 この小説はホビー漫画の型に異世界転生というジャンルに属した枝葉のかなりを網羅してパロディしています。これはそのジャンルについての深い理解と考察がなければ成しえません。

 たかが異世界転生と侮ってる人もいるかもしれません。しかしそれは間違いであると断言しておきます。大ヒットしているファンタジーの全ては非日常である異世界をモチーフにしており、言ってしまえばナルニア国物語ネバーエンディングストーリーなどの作品も異世界物であります。その魅力を一部とはいえ、十全に理解して伝えることができる。これは全ての創作に通じることです。

 面白い物をなぜ面白いか調べ、理解しようとすること。これが創作を人に伝える上で最も重要なことだと思います。表面上をなぞっただけではいつか面白さの芯を外してしまうでしょう。私が基本的に作者ではなく作品単位で評価するのもそれが理由です。

 その上でこの小説はパロディとして異世界転生のジャンルをホビーという型に落とし込んでいます。私がこのジャンルについてどう思う? と聞かれたらここが大事で~~と語ることはできますが、明確なジャンル分けや詳細については考えていませんでした。私自身は現状何かを書いたりしているわけではないので必要に駆られなかったというのもあります。といっても自分の考えは十分なものだと思っていました。大抵の作品について自分の考えで話すことができるからです。

 しかしながらこの小説を見て思ったのです。少なくとも似たようなことは考えているし問われれば語ることもできる。しかし私にこれだけうまく落とし込んで説明できるのか? その答えはできないであり、なので私は負けたと思ったのです。

 とまあ自分のことは置いておいて小説の話しに戻りましょう。異世界転生のお約束をホビー作品のテイストに入れて風刺しつつも、最終的に肯定する流れというのはとても美しく、これ以上ないと言っても過言ではないでしょう。キャラ立ては少し薄いですがそもそも詰め込みまくっているので薄くならざるを得ないというか。そこを助けるホビー作風はとてもマッチしています。伏線の貼り方もこの長さに合っていて総じて非常に完成度が高いです。

 しかし異世界転生というジャンルの消費の歴史とホビー作風のコメディということを考えると万人に受けるわけではありません。それが☆4つにした理由です。

 とはいえすごい作品なのは間違いありません。異世界転生のコメディを楽しむのもいいですし、あまり見たことがないホビー作風のストーリーを楽しんでもいい。メタ的に見ても完成度が高く、いろいろな楽しみ方ができます。

 とてもおすすめなので異世界転生物を一度でも触ったことがある人はぜひ読んでください。

 蛇足なのですが読み終わった後、作者名に見覚えがあったので見てみたら異修羅の作者さんで驚きました。あの高い筆力は考察によって裏打ちされていたのかと深く納得しましたね。ここ数年で一番押してる作家さんになりました。

 

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054884850859