オタク文化の切れの端

基本的にweb小説を紹介するブログです。普通のラノベも読みます。批評とかもします。たまに一般文芸とか映画の感想とか思ったこととかが入ります。

【ネット小説 紹介】ロスト=ストーリーは斯く綴れり

魔術国家デ・ラ・ペーニャには、魔術の研究機関である『魔術大学』が無数に存在する。
 学内では各分野における教授の指揮の下、新たな魔術や道具を開発すべく、大勢の魔術士が試行錯誤を繰り返していた。

 17歳の少年、アウロス=エルガーデンは最低水準の魔力しか持たない魔術士。
 彼は魔術そのものではなく、魔術が出力されるまでのプロセスを簡易化・高速化する為の論文を作成しようとしていた。

 過去に多くの魔術士が諦め、現在では“一攫千金論文”と揶揄される研究に臨むアウロス。
 才能も愛想もないその少年の揺るぎなき信念は、それぞれに質の異なる闇を抱えた同僚達を巻き込み、やがて大学、そして国家にさえも多大な影響を及ぼす――――

 

 




 本文紹介より おすすめ度☆☆☆☆★(4.5)

(おすすめ度 指標

☆5つ 万人におすすめ出来る完成度が非常に高い小説

☆4つ 小説好きには勿論、殆どの層におすすめできる完成度の高い小説

☆3つ 少し癖があるものの小説好きにおすすめ 

の目安で付けています)





 この小説はハイファンタジーです。魔力量の少ない主人公が、魔術を出力されるプロセスの簡略化というその難易度の高さ故、だれも見向きもしなくなった論文の研究に挑むというweb小説では他に見ない異色のテーマですね。しかしテーマはともかく中身はライトノベルの王道とも言える物となっています。

 最初の投稿日が2009年と驚きの10年前となっており、古参の小説です。完結済みのこの小説ですが最後のエピローグが投稿されたのは2016年となっており、実に七年の歳月をかけて完成された小説となっています。

 この小説の特徴は架空の魔術理論を前提に主人公が綴る論文を巡った出来事、そのリアリティの高さです。この小説を私が初めて読んだのは数年前でしたが、その時の更新分まで読んだときにこの密度なら執筆に時間かかるはずだと思ったのを覚えています。

 魔術理論というこの世界には存在しない(存在を知ってる方は是非ご一報ください。幸せになれる壺はいりません)ものを前提にしているはずなのに、きっちりと塗り固めれたそれはその世界のリアルを否が応でも感じさせてきます。

 物語でこのような架空の理論を扱う場合、基本的には勢いによって細かなミスが押し流すという手法が取られやすいのですが、この小説は違います。緻密に編み込まれたそれが綻びなく土台としてその世界を支えているのです。このような創り方は時間と根気(それと必須ではないものの参考となるモデル)が必要で大変な労力がかかります。それを成し遂げているこの作品はとてもすごいものです。

(今では消されてしまったようですが、エピローグでの最後に作者の方がある研究の界隈をモデルにしたとおっしゃっており、少し考えると自分でも心当たりが浮かびましたが、それがあっても大変な所業であり、作品の良さに陰りがないことは言うまでもありません)

 だからと言ってこの作品がリアリティばかりで取っつきにくいわけではありません。魔術研究がテーマといっても主人公の前にはたくさんの障害があり、時には戦って、時には知略をもってそれらと戦っていきます。頭脳戦がしっかり描かれているのも特徴的で作者の方の力量を感じさせます。

 それにもう一つの特徴として、個性的なキャラクター達の魅力も書き記しておかねばなりません。どのキャラにもきっちりとした人物描写がされており、主人公の仲間はもちろん、敵として現れる人たちも主人公の邪魔をするために出てきているのではなく、あくまで自分の目的があってその上で邪魔になった主人公と戦っているということがよくわかり、とても魅力的です。私はデウスとルインが好きですね。

 とこのようにすごい作品なのですが出来の割に魔術研究がテーマという部分でweb小説の大衆からは受けなかったのか、評価が少ないように感じます。

 しかしここまで骨太のファンタジーをきちんと描き切っている作品はなかなかありませんし、おすすめ度も少し硬質な文章を考慮して4.5としているだけでそこがクリアできるならとても楽しめると思います。ぜひみなさんも読んでみてください。おすすめです。

 

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