オタク文化の切れの端

基本的にweb小説を紹介するブログです。普通のラノベも読みます。批評とかもします。たまに一般文芸とか映画の感想とか思ったこととかが入ります。

【ネット小説 紹介】インスタント・メサイア

 魔族と呼ばれる怪物たちに、生まれ育った村を滅ぼされた男がいた。
ホールズと呼ばれるその大陸で、人類は、徐々に力を増していく魔族の勢力に生息圏を奪われはじめていた。
そのような中、彼は奴隷商に引き取られて生きてきた。
村の唯一の生き残り『ナイン』が、恨みなどもう忘れたのだと。
そんな風に見せかけて、底抜けの憎悪と愛情を世界に叩きつけるお話。
自分の大事な者を全て奪った魔族の下僕となり、彼女たちを命懸けの愛情と狂気で侵食する物語。

※サイドストーリーを追加いたしました。

※株式会社オーバーラップから「インスタント・メサイアⅠ」発売中です。
 イラストレーターを務めてくださるのはcinkai様です。
 また、皆様方の御声援、御助力のおかげで出版することが出来ました。
 本当にありがとうございます。
 書店で見かけられましたら、是非是非お手に取ってくださいませ!

 

 

 

 

おすすめ度☆☆☆☆

(おすすめ度 指標

☆5つ 万人におすすめ出来る完成度が非常に高い小説

☆4つ 小説好きには勿論、殆どの層におすすめできる完成度の高い小説

☆3つ 少し癖があるものの小説好きにおすすめ 

の目安で付けています)

 

 この小説はハイファンタジーです。恋愛復讐譚とでも言いましょうか。故郷を滅ぼされた主人公がその敵である魔族に愛することで復讐するという他に類を見ないテーマがメインです。

 一つだけ断っておくとこの小説を読んだのが何分昔なものなのでちょっと読み間違いがあるかもしれません。いつもは読みなおししてから記事を書くのですが、最近他にも大量の小説を読んでいるせいで時間がなく、過去の感想を頭から引っ張ってきてます。今後はそういう機会も増えるかもしれません。ご了承ください。

 さて内容の話しをするとやはり相手を恋愛的に攻略することで復讐を成し遂げるという例を見ない構成について語らなければならないでしょう。

 復讐というテーマを物語上で輝かせるには主人公から復讐対象への強い動機付け(故郷を滅ぼされたとか)と復讐心を持続させるイベントを入れる(動機の維持)のが必要だと個人的には思います。動機の薄い復讐なんてテーマにはなり得ませんし、復讐心は擦り切れていくのが普通であって、何の理由もなく長続きすると読者の心が離れます。

 私は復讐というテーマはとても難しいものだと思っています。主人公の動機が近しい人の殺害や所属する場所の破壊などいろいろありますが、結局それにリアリティを出すにはそこに対しての描写を入れなければなりません。そうなると一部だけがリアリティを持っているというのは逆に違和感が出るので、世界観全体の描写も増えるでしょう。長く追えば追うほど復讐対象にも深みが欲しくなりますし、復讐心に定期的な燃料を補給してやらなければなりません。必要なものが多い代わりにきちんと完成させた時、傑作になる。そういうテーマだと思っています。

 この小説は復讐方法に愛するということを選びました。普通復讐方法は暴力なのですがここが異色なわけですね。作中に主人公の直接的な暴力はほとんどなかったと記憶しています。ここで安易に混在させないところがすごいです。

 ここでいう愛するという攻略法ですが、結局他人の心情をきちんと納得できる形で描写したうえで、その穴を付いて堕とすというのが基本的な手法になります。仇のキャラクターの心情を掘り下げて、攻略していくわけですからそのキャラにも魅力がなければなりません。心理描写にも読者に納得させるだけのリアリティがなければ作品自体が崩れてしまいます。必要なことが山盛りですね? その辺りをとても高い次元でこなしているのがこの小説です。

 この小説は基本的にはおどけたような口調でありつつも、どこか狂気を感じさせる主人公の一人称よりの三人称で進んでいきます。場面によっては視点が頻繁に変わりますが読みやすく、雰囲気も損ねないのは作者の方の技量ですね。世界観、心情描写。すべてを綺麗にこなし、高いレベルでまとめています。

 惜しむらくは今後更新があまり期待できないことでしょうか。それでも読む価値はあります。

 ダークなファンタジーが好き、テンプレじゃなくて気色の違う作品が読みたい! という人には間違いなくおすすめできます。  

 

 

https://ncode.syosetu.com/n8143bt/

 

 

インスタント・メサイアI (オーバーラップノベルス)

インスタント・メサイアI (オーバーラップノベルス)

  • 作者:田山翔太
  • 発売日: 2018/03/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)