オタク文化の切れの端

基本的にweb小説を紹介するブログです。普通のラノベも読みます。批評とかもします。たまに一般文芸とか映画の感想とか思ったこととかが入ります。

【ネット小説 紹介】それでも平凡は天才を愛せるか?

 鷹閃大学。世界屈指の名門であるこの大学には奇人が多い。平凡は彼らとの交流に悩み、苦悩し、対立する。

 本文紹介より

 

おすすめ度☆☆☆

(おすすめ度 指標

☆5つ 万人におすすめ出来る完成度が非常に高い小説

☆4つ 小説好きには勿論、殆どの層におすすめできる完成度の高い小説

☆3つ 少し癖があるものの小説好きにおすすめ 

の目安で付けています)

 

 この小説はヒューマンドラマを軸とした小説です。ヒューマンドラマって表現あんまりしっくりこないんですが適格な言葉が思い浮かばなかったためこうなってます。

 あらすじとしては超名門大学に入った平凡を自称する主人公が一癖も二癖もある学友たちと関わるうちに成長していくみたいな話です。このあらすじだと全然良さが伝わらないのですが実際の出来事的にはこれで合ってるので中身の掘り下げに向かいます。

 この小説の素晴らしいところはキャラ立ちです。出来事にしてしまえば割と簡易に現せてしまうこの小説ですが、それを面白い作品へと昇華させている要素が魅力的なキャラクター達にあります。一章ごとにフォーカスされるキャラクターがいるわけですが、そのどれもが明確に魅力があってキャラ立ちしています。それが主人公の丁寧かつ共感呼ぶ語りによってするっと入ってきます。

 主人公の一人称がこの作者さんの上手いところで、一人称が読者層にとても寄り添っている感じが没入感をあげるとても大きな要因になっています。ライトノベル主人公として満点に近いかもしれません。このおかげで物語と現実(読者)の繋ぎをとても滑らかにしています。

 特に最初の物語に導入する部分はここ最近読んだ小説の中でも一番かもしれません。

 物語として必要な要素を詰めて入れた、という感じで無駄な要素をそぎ落とされたこの小説は、ストーリーラインもきれいにまとまっていてとてもいいです。

 ライトノベルが好き、現実に近いけれども遠い、そんな学園物を求めている人におすすめです。 

 

https://ncode.syosetu.com/n6792em/

 

※注 ここから先は個人的な感想なので読まなくてもいいです。

 

 

 

 ここからは個人的な話なのですが、この小説を☆3つにしたのは話の題材やらが私に合わなかったためです。合わなかった箇所はそこそこあるんですが大きなとこを書きます。

 まず物語上では鷹閃大学となっているのですが、まあこれって現実でいえば東大ですよね。東大の人間がこんなはずない! なんて言うつもりは甚だないのですが、なまじ現代をモチーフにしているために現実が重ならないので現実の解釈違いになると言いますか。

 詳しく説明すると物語が現実をベースにしているのでそこに生きるキャラクター達はともかく、そのほかの部分(人間、能力とか)は特に説明がないなら現実準拠になっててほしいんですよね。わがままですがそうじゃないと筋が通らないと思っていて。

 例えば物語に猫が出てきたとして、それを皆が猫としてある程度共通して認識できるのは読者の頭の中に『猫』のイメージを持っているからですよね。人によって思い浮かぶ猫は違いますが。

 その共通のイメージを物語の猫に変えるために小説は文字を使って説明するわけですが、これは小説内のどんなものにも言えます。主人公たちキャラクターも元は現実の人間をベースにしているわけですが、こういう性格でこういう見た目で……というのを物語内で付け足していくことでただの人間ではなくキャラクターとして成立するわけです。

 例を挙げるとするならヒロインとかにありがちな料理が壊滅的に下手という個性があります。現実でいうなら限度があるんですがそういう『キャラクター』として作られているので違和感なく見れます。

 ギャグ物の世界観とかもそうですね。こういう世界なので人がぶっ飛んだり死んだりしても次の場面では元通りです。現実はそうではないですが、その世界ではそうなのです。

 この小説に感じたのはそのような説明がないのに現実の『人間』をその世界の住人にしてしまっているというか。そんな違和感ですね。

 後半に行くにつれこの作品のキャラクターたちは、その世界の住人達をダシにしてスケールを広げるんですが、そこに出てくる十把ひとからげのモブ人間たちがただの舞台装置にしか見えないというか。キャラクター達に群集心理を名目でいいように操られちゃうんですけど、説明もないのにそんな風になるか? とうるさいオタクの脳内が叫んじゃったという。一度疑問に思ったらもう駄目ですね。

 最初にも書いたんですが小説紹介にもあるように世界屈指の大学の生徒なんですよ、ダシにされてるモブ君たち。その上で心理学やらなんやらで簡単に操られるし、でも彼らは社会的にめっちゃ強い人間で頭もよく、そんな彼らを操れます、やばすぎる……みたいな感じでうーーーんとなってしまいました。実際は知らないだけでそんな最強学問心理学があるのかもしれませんが、私の知る中にはありません。

 この小説はストーリーの大きさの割にかなり圧縮して作ってあります。日常回のようなものはあまり見当たりませんし、ストーリーの線に沿って一直線です。余計な寄り道をせず。その上で物語上は破綻なく終わっているため、とてもきれいに終わっています。作者さんの力量がとても高いのがよくわかります。

 しかしながらそうやって切り捨てた寄り道部分に実は物語構成上で必要なものがあったのではないかと思います。少なくとも私には必要だったものがありませんでした。

 まあこんな重箱の隅を突くような面倒な人間はほとんどおらず、そんなの気にならない! って人が多数派だと思うので紹介しました。そこを置いておくことで私も楽しめました。なんだかネガティブキャンペーンのようになってしまったのであれですが、とても完成度が高く面白い小説ですよ! 以上はオタクのめんどくさいたわごとです。小説の紹介から結構離れちゃってるので後で削除して別記事として挙げるかもしれません。